なると、タミノとひろ子とは、工夫してなるたけ人目をひくように、字の大小、ふちどりなどに心を配りながら、大きいのや小さい四角い伝単形《でんたんがた》やらのガリ版をきった。
託児所の経済は、市電応援以来非常にわるくなった。ひろ子らは、これまでのように、定って毎日来る子供ばかりを預るだけでなく、急用で出かける母親にも便宜なように、どんな臨時でもおやつ代だけで預ること、そして託児所の仕事をもっと大衆化することを決定した。同時に従来も労救とは別に託児所としての維持員を一般の進歩的な家庭の婦人の間に持っていた、その方面も拡大しよう。原紙を切っても、手許に謄写版がなかった。診療所まで出かけて行って刷らなければならなかった。翌日タミノが、例によってスカートに下駄ばきで出かけようとしているところへ、臼井がやって来て、
「どれ?」
タミノの手から原紙の円く捲いたのをうけとって見て、かえし、
「あっち、多分今つかっているでしょう」
各部署の活動に通暁したように云ったりした。
「あら! やんなっちゃうね。よって来たの?」
臼井はそれには答えず、
「そんなものくらいだったら、僕の知っているところのでやれ
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