ろを見ると、羽目板のはずれたのを、片ぺら泥だらけのまんまひきずって来た。それを、ブランコの切れた繩の下まで引っぱって行き、繩へくくりつけた、つまりブランコらしいものにしようとしているのだが、繩は太いし、板は薄くて幅がひろいし、霜やけの出来た小さい二郎の手にはしまつがつかない。ぎごちない恰好で膝までつかって何とかしようと、板を落しても落しても、二郎は声も出さず力みこんで骨を折っている。家でも、託児所でも、玩具らしい玩具を持たない二郎の努力がそこにあるのであった。ひろ子はそれをただ見下してはいられない心持になって来た。タミノはどうしたのだろう。そう思いながら下りて来て、ひろ子はおやと思った。臼井がいつの間にか来ている。そしてあっち向きに、タミノと向いあって柱によりかかっていた。ひろ子の跫音で、タミノが顔をあげると、臼井はこっちは振りかえらないまま、いそがず、しかし十分ひろ子を意識した素ぶりで何か前にあったものを畳んで紺絣の内懐へしまった。
ひろ子は二人のいる四畳半の方へ行こうとしたのをやめた。そしてありあわせの下駄をはいて外へ出た。
五
夜みんな子供をかえして静かに
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