めず、
「――ブランコ工場だヨ!」
 イーというように返事している。
 見下していたひろ子は、声は立てずに大きな口をあけて笑った。
「ここ、キカイだよ!」
 矢張り生真面目な顔で、袖子は、ブランコの柱のひびわれた木目を、あいている左手の指先で押しつけるようにして二郎に示している。
 今度は二郎が黙って袖子と並んで立った。そして自分でも、もう一本の切れた繩の端を握り、袖子よりもずっと荒ぽく、調子をつけて振っている。振っていると思うと、二郎はいかにも男の児らしい敏捷さで、ひょいとゆれているその繩の先へぶら下って、脚をちぢこめた。止りそうになるとゴム長で地べたを蹴り、またぶらん、ぶらん振り直す。盲滅法に地べたを蹴ろうとする二郎の足は、やっと地べたに届いたり、そうかと思うとたった二分ぐらいのところで宙を掠《かす》めてしまったり。――
 ひろ子は、いつかつりこまれ、さながら二郎の背中を押してでもやっているように、調子をあわせ無意識のうちに自分まで顎を動かした。
 袖子は、繩を持ちかえたが、そのまま目を凝して二郎のやることを観察している。
 それに飽きると二郎は暫くどこへか姿をかくし、出て来たとこ
前へ 次へ
全59ページ中40ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング