売会に誘って行った同じ長屋の神さんから、二十銭足らずあつめただけであった。
ひろ子は、自分たちの託児所でのそういう経験を、数ヵ月前から持たれるようになっていたフラクションの会合で話した。その日は亀戸での話もされた。亀戸では応援活動のために特別な父母の会が催された。そして、特別に若い人が来て、それぞれの職場はちがっても、労働者であるということから共通に守られなければならない労働者としての連帯ということについて熱心に説明した。親たちは、はじめから終りまで傾聴し、その場で相当な額の基金が集った。ところが程なく意外な結果があらわれた。一人、二人と子供が減りはじめ到頭長屋から五人の子がその託児所へ来なくなった。
「何から何まで一どきに話しすぎたのがわるかったんです」
睫毛の長いそこの保姆が全体的な批判として云った。
「やっとききだしたところによるとこうなんです。話があんまり尤もで、もし争議へまきこまれたらとても断りきれない。もしそうなったら自分のクビが心配だから、今のうちに子供をひっこめちゃおうということになったらしいんです」
「なるほどね」
大谷は、一度ふーんと呻《うな》って、笑った。
前へ
次へ
全59ページ中37ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング