苦労様、どうだった?」
タミノは、とんび足に坐ったスカートのポケットからハトロン紙の小袋を出し、一つ一つふるって白銅三枚と銅貨を十一二枚畳へあけた。
「依田の小母さん、二度目なんでねえって、渋ってた。これっきりか!」
市電争議の基金を託児所でもあつめるために袋がまわしてあった。
「直接のことじゃないから、何てったってちがうねえ。本当に勝つかどうか分りもしないのに、弾圧くうだけ馬鹿らしいっていうところもあるらしいね」
市電の従業員の中には、労農救援会の班がいくつか出来ていた。蛇窪が赤坊寝台を買う必要に迫られた時、柳島では班が中心になってその基金を集めた。その金で今ある三つの籐の寝台が備えつけられたのであった。藤田工業、井上|製鞣《せいじゅう》、鍾馗《しょうき》タビ、向上印刷などへ出ているここの父さん母さん連は、そういうことから市電の連中と結ばれた。隣り同士の義理堅さというようなところもあって、一回の基金募集の時は三円近く集った。然し、おッ母さん連は、自分達が出ているそれぞれの職場で市電従業員のために基金を集めるというような活動をすることは概して進まず、綱やのお花さんが、消費組合の即
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