家社会主義は、労働者の幸福とどんなに反対のものであるかということについて、誰にでも呑みこめるような説明をひっぱり出そうとしているのかと思ったら、そうでもなくて、山岸の曖昧な、階級というものの対立する関係の説明をぬいた答弁だけで、反駁さえも加えられずに終った。そして、
「議長!」
次には、まるで別な話のように、こんな提案がされた。東交はスローガンとしてファッショ打倒をかかげているが、俺はそのスローガンに反対だ。東交の規約には、政党、政治に関係なく全従業員の経済的利益を守るとある。それだのに、ファッショ打倒なんかというスローガンをあげることは規約を無視している。だから、
「その点がはっきりしねえうちは、俺あもう組合費は出さんつもりだ」
「チャッカリしすぎてるぞ!」
「下田は何だヨ!」
それは、東交内で有名なダラ幹で新聞にさえその御用的立場はすっぱぬかれていた。
「ファッショのヤタイ店、ひっこめ!」
「議長! 議場整理!」
「みなさん、静かに願います。順々に発言して下さい!」
議長は形式的にそう云ったぎりで、支部長の山岸はその間ずっと片手をポケットにつっこんだなり、小机の端に頬杖をつき
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