、おきているのか居睡りしているのか、瞼の重い目をつぶって場内を混乱にまかせている風である。散々ごやごやしぬいて肝心の討論の中心ははぐらかされ、全体の気分がだれて散漫になった時分、議長はさも潮どきという風に色の悪い顔をのび上らせ、
「じゃア、もう時間が来ましたから」
と決議を求めた。柳島車庫は、何処かがストに立ちさえすれば[#「何処かがストに立ちさえすれば」に傍点]、直ちに罷業に入るという奇妙な決定をしたのであった。
三
事務所の裏口から出て、コークス殼の敷かれた長屋の横丁を歩いて来るうちに、ひろ子は苦しい、いやな心持がつのって来た。
それは複雑な心持であった。東交が、全く従業員の高揚を引止める役にしか立っていない。それだのに、自分はうまく幹部に扱われて実質的な激励の役にも立たない前座で、応援のことを話させられてしまった。その失敗が今はっきりと感じられた。ひろ子が情勢をよく見ぬいて自分の話をあとに押えておくだけの才覚があったら、全体の気分があんなにだれた時、少しは引緊める刺戟にもなったかもしれまい。山岸ははじめっからそれを見越して行動した。大谷が来ないと云ったとき
前へ
次へ
全59ページ中22ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング