東交幹部の大部分が盛に従業員の心にふきこんで来ていた。情勢がこみ入ると、そういうあれか、これかへの考えかたはどこにでも起りがちであった。亀戸託児所が市電の応援をやりすぎて親たちがこわがりはじめた、その時にもやはり、争議応援を全然打切ろうという意見と託児所ぐらい一つ潰したっていいという見解とが対立して、大谷がその席でその両方とも誤っていることを指摘した。
 度々の弾圧で東交の職場大衆の中には、このいかがわしいかけ引きの底をわって、自分たちのエネルギーを正しい闘争の道へ引っぱり出すだけの組織者、先頭に立つべき指導者がのこされていない。それが、はたで見ているひろ子にさえ分った。
 場内は、立ちこめる煙草のけむりと一緒に益々混乱し、いろんな突拍子もない意見や質問が続出した。
 ストは是非やるべしだ。が、今度こそは百パーセント勝つという保証つきでやって貰いたい。
 そういうのがあるかと思うと、どういう意味か、わざわざ、
「俺は支部長にききたいんだが」
と、国家社会主義とはどういうものかと質問したものがあった。ひろ子はそれをきいて、はじめその質問者は、窮極には資本家の利益を国家が権力で守ってやる国
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