抗議に拘らず、あっさり蹴られた顛末《てんまつ》は、即刻掲示したとおりであります。今日は、その後の経過について報告し、我々第五組としての態度を決したいと思いますが、その前に、今ここへ、労救が人をよこしているから、その方からやって行きたいと思います」
すると、ひろ子が坐っているすぐわきにあぐらをかいていた一見世帯持の四十がらみの従業員が、誇張した大声で、
「異議なし!」
と下を向いたまま首をふって叫んだ。
「――……じゃ、どうぞ」
ひろ子はその場で居ずまいを直し、口を切ろうとしたら、
「こっちへ出て下さい」
議長が自分のわきを示した。ひろ子がほんのり上気した顔でそっちへ立って行くと、更に、
「異議なアし!」
と後の方で頓狂に叫んだ者がある。笑声が起った。
それにかかずらわないことで全体の空気をひきしめつつ、ひろ子は飾りけのない、はっきりした口調で、今度の争議が一般の労働者の神さんたちにまで、どのくらい関心をひき起しているかということを、鍾馗《しょうき》タビへ出ている秀子のおふくろの言葉などを実例にひいて話した。そして、今朝、既に広尾では家族会を応援して移動託児所をひらいていることを
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