説明した。
「きのう、慶大裏で飛びこみ自殺をした大江さんはほんとにお気の毒だったと思います。新聞は日頃呑んだくれだったと書きましたけれど、広尾の人からじかにきいた話はちがいます。大江さんのお神さんが病身だものでどうしても欠勤が多く、それを首キリの口実にされたからああいうことになったんだそうです。私たちがもっと強くて、病院でも持っていたら、大江さんは病身のおかみさんのためにクビにはならずにすんだのにと思います。自殺しなくてもよかったと思うと、残念です」
「異議なし!」
「そうだ!」
 つよい拍手が起った。ひろ子は自分ではまるで気づかない集注した美しい表情で顔を燃し、
「どうぞ、皆さん、がんばって下さい」
と云った。
「私たちは及ばずながら出来るだけのおてつだいの準備をしています。それが無にならないように、どうぞしっかりやって下さい!」
 さっきのような彌次気分のない、誠意ある拍手が長く響いた。
「――では続いて報告にうつります」

 皆に要求されて、支部長の山岸が片手をズボンのポケットに入れた演説口調で、
「不肖私は、この際支部長の責を諸君と共に荷《にな》っております以上は、あくまで闘争
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