て動く世の中がひらめいて居る。

 八月二十一日(金曜)
 午前中に帰る。赤い太陽に頭の上からテリつけられてに出す様な汗をふこうともしないで私は本を抱えて歩いた。
 熱が出た七度四分。
 下痢、腹痛。
 明日又早く床を出られるか何《どう》かは?

 八月二十二日(土曜)
 朝少し無理でも起きて仕舞う。別にこれぞと云って気分の悪い事もない。
 坂本さんへ手紙を書く。
 誰か来て呉れれば好いなどと思う。
 四十日の間何もしないで寝て暮したと思うと馬鹿馬鹿しいにもほうずがあると思う。
 田舎にでも行ったりそろそろと始めて冷っこい夜が来る様になったら目覚しい武者振を見せなければならない、古橋さんから百年立っても枯れない花を貰う。

 八月二十三日(日曜)
 独逸《ドイツ》に向って宣戦詔勅が発せられた。
 何となく亢奮した気持になる。争われないものだ。
 神棚に御燈明をあげる、美くしい。
 午後から工合が悪くて床に入った。二時間ほど眠ったので夜辛い目に会った。
 蚤がたまらなくせめる。
 夜に入って雨が降りだす。
「水の出る雨だ」こんな事を云って居た。
 本を読む事を止められた。情なかった。


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