西村の祖父[#西村茂樹、母方の祖父、倫理学者]の御法事があった。
 お月様のと鈴虫の短っかい詩の様なものを書いた。
 国男が明日安積へ行く。
 イギリスの石橋さんから絵がとどく。
 midnight と云うのが気に入った、呉れるんならすぐ手の出したいほど。
 今日来た外国雑誌の糊がくさくていやな香を放して居た。
 鉛筆だのナイフなんか入れる袋を作る。
 始終腰にさげて居たいものだ。

 八月十九日(水曜)
 久米氏の「牛乳屋の兄弟」が来月の十七日から四日間上場されると云う事だ。行って見たい気もする。
 けれ共雑誌に出て居るのを見ただけではそう私のすくものでは有りそうもない。お敬ちゃんが来る。
 二枚絵を持って来て見せた。一枚は私に呉れるんだそうだ。色と眼と模様が気に入った。

 八月二十日(木曜)
 午後から大沢に行く。先月の十八日以来初めて外出したので田舎から帰って来た時の様な気持がした。
 電車がこわい様な気がした。
 妙なものだ。
 夜神楽坂に行く。アセチリン瓦斯の臭い下の露店と男に会う毎にさわぐ芸者共が真面にお化粧して下《げ》すに歩くのにも石の上で三味を弾く袖乞の指先にも活き
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