ったんだそうだ。
 水枕で先にふとんが濡れたので気にしてフトンフトンと早口に云って居たと云った。

 八月九日(日曜)
 読む事と書く事を禁じられた。
 それを私は少しの辛棒だと思って苦しいながら堪えて居る。
 丈夫になりたいばっかりなんだ。
 達者な時には死ぬ事なんか何でもない様に云って居るけれど、いざとなると驚くほど「生」と云うものが尊く思われる。その大きな力にひきずられて私はがまんして居るのだ。

 八月十日(月曜)
 病気をして物を考える。
 又さとりを開くとか云うのはたいてい少しはひまのある病気――って云うのも可笑しいけれどもほんとうに少しはひまのある病気でなければ出来ない事だと思う。
 私みたいに汗をだくだくながしては寒気がして熱が出る。それをくり返しくり返しして居る様では自分が生きてるか死んでるかさえたしかめられないほどだ。考えるなんて云う事はまるで頭に無い。

 八月十一日(火曜)
 土が白くポカポカ浮いて居る。
 雨が降るといい。
 斯うやって家に病上りで居ると一日毎に目の前に変った景色を見たい。
 草木が死んだ様な色をして居る。
 村々では雨乞をして居るんだろう。

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