こしょうを云いながらぐずぐずして居るのが相すまなく思われた。
「何も考えない事はありませんワ」降る雨の中にこんな事もつぶやくほど私はふるえる様な心をもって居た。
「冬の日を嵐の吹けば事更にらちなき事も思ひしのばれつゝ」

 一月十五日(木曜)晴 暖
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〔摘要〕学校出席、母様御外出
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 青い顔をしてうつむき勝ちに学校に行く。昨日の天気に似っつきもなくしらじらしい青空の様子がすれた男の目の様に云いがたくにくらしく見えた。心のそこにすきがある。悲しさや涙をこぼしたいのをこらえて上《うわ》べで笑って居なければならないのを思えば私はひと里[#「里」に「(ママ)」の注記]でに目をつぶりたくなる。ひやっこい石の上につっぷして――私は或る芝居の舞台面の中に自分を加えて考えるほどセンチメンタルな感情になって居る。たった一人ぼっちはなれた心持で本を抱いて枯れた芝生を下を見て歩くとわけもないじめじめした気持が地のそこから湧き上って来る。

 一月十六日(金曜)晴 稍々《やや》暖
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〔摘要〕学校
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