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って云ってやりたかった。
 売店はこれも又地下室でまるで牢屋みたいな所だ。そこに木のゴチャゴチャなテーブルの前に立って、くらい中でおすしをほおばるやら、パンをぱくつくやら、たばこをすうやら、まっくらな中に煙草のにおいとクチャクチャクチャとお行儀のわるい人のものをかむ音ばっかりがみちて居る、こんなところで有りながら人がうじゃうじゃ居るにはおどろいた。
 私は鉛筆を買いながら斯う思った、「出来ることなら、廊下の長さをもちっと倹約して売店の窓をもちっと大きくしてほしい」と。
 いかにもお役人風なところばかりなのが少しいやだったがとにかく二時間ばかり見てかえる。
 帰りには日がさしたので馬鹿にあつかった。一時間ほどノロクソとして居てから書き出す、大抵出来上った、題は「魔女」と云う。
 夜はつくづく「時」と云う事を考えた。
 私が七十まで生きるとしても五十五年ほかない、その間、二十五六までミッチリ勉強してもほんとに働くのは一寸ほかないんだからと思うとイライラするような過ぎて行く時のかことをおさえてとめて置きたいように思われる。
 ねしなに「火取虫」を書いた。「花月雙
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