日記
一九一三年(大正二年)
宮本百合子
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)紫陽花《あじさい》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)朝のかがやきはい[#「い」に「(ママ)」の注記]おって居る。
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七月二十一日 晴
木の葉のしげみや花ずいの奥にまだ夜の香りがうせない頃に目が覚めた。外に出る。麻裏のシットリとした落つきも、むれた足にはなつかしい。
この頃めっきり広がった苔にはビロードのやわらかみと快い弾力が有ってみどりの細い間を今朝働き出してまだ間のない茶色の小虫が這いまわって居るのも、白いなよなよとした花の一つ二つ咲いて居るのまで、はっきりした頭と、うるみのない輝いた眼とで私は知ることが出来た。人間を最も、力の満ちた、快活な時にする朝を私は有難い物に思われた。いつもより沢山……紅葉、紫陽花《あじさい》、孔雀草、八つ手、それぞれ特有な美くしさと貴さで空と土との間を色どって居る。どんなささやかなもの、そんなまずしげなものにでも朝のかがやきはい[#「い」に「(ママ)」の注記]おって居る。
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「力強い、勇気
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