れた。
「鴨」の原稿を破かれてしまった、小さい妹[#中條華、中條家三女。百合子が長女、次女は千鶴(生後四ヵ月で死亡)]に、……
こんな事はみんな私の心持をいらいらさせたり、涙をこぼしたりさせたりした。
気の狂った様に汗をながして躰を働かせてホット息を吐くと一緒に心の中にすきのあるような気持になって居た。
おひる前は御ひるっからになったらたのしい事があろうかもしれないとこんな事を思って午後になった。だけどうれしい事もたのしい事もなかった。
「鴨」をかきなおして、里親の家から帰った子、とむしゃくしゃな心のまぎれに題もない短いものをみんなで三つ書いた。
ペンの先にならべられるものの一つ一つの意味もきのうとはまるであべこべのものであった。
夜は心をおちつけようとローソクをつけてだまってからかみをにらんで居た。けれどその焔のゆらめきに私の心も一緒になってゆれて居た。すきな本をひざの上にのせてそのかどをなでまわして、生きた霊のあるもののような気持で紙とかみのすれ合う声や香りを可愛がって居る内によほど気が落ついた。
どんなにいらいらしてもどんなになさけなくってもする事だけはしたんだから、
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