げて見るとわきの木ばこの上にのっけてある石膏の娘の半身像のかおが影の工合で妙にいやらしく見えたんで手をのばして後むきにしてしまった。それからインクスタンドの下の方にゴトゴトになってたまって居るのでペンが重くってしようがないんで、気がついたらもう一寸もいやになったんでまだ一寸あったのをすててしまってきれいに水であらって、丸善のあの大きな□□[#「□□」に「(二字不明)」の注記]のびんから小分をしてペンをひたして書いて見ると気持のいいほどかるく動く。
 この勢で何か書こうかと思ったけれども何にも出て来なかったから、いろんな雑誌の中から書ぬきをして御ひる前はすんでしまった。
 御ひるっから二時頃までは何やら彼やらと下らない事を云ってすごしてしまったので大あわてにあわてて墨をすり筆の穂をつくろって徳川時代を書いた古風な雁皮紙《がんぴし》とじたのと風俗史と二年の時の歴史の本と工芸資料をひっぱり出す。
 この徳川時代をひっぱり出したわけは、こないだの夜、父が、ただやたらに本をよみ書きなどして居ても下らないから時代時代を丁寧に親切にしらべて見た方が好いだろうと云われたからその説にしたがって割合にくわ
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