さえて男のような大きな声で笑いつづけた。間もなく、しずかなゆるやかな光線の流れ込む部屋に入って鉛筆をとった。二時間ばかり算術をした。本をよんだ。世間知らずな若い人達の詩と文章とを……、
これ等の本をよむ間、私は切りこの可愛いガラスのうつわの中から、銀紙につつまれたチョコレートをかみながらよんで居た。
紙の間にもチョコレートの香の中にもうれしさはとけこんで居た。
うれしさにあとおしをされて
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「ついばんであげよか小麦さん」
白いひよこは云いました、
小麦の芽生えはおどろいて
細いその葉をふるわせて
やさしい声で云いました、
「もちっとまって下さいな
わたしの身丈のもう少し
大人に近くなるまでは」
菫の香りのとけ込んだ
春の空気はフンワリと
二人のまわりをつつみます
紫紺にかがやくせなもった
つばめが海を越えて来た
小さい可愛い背《せ》の上に
夏の男神を乗せて来た
茎は青白葉は柔く
小麦が大人になりました
「ついばんであげよか 小麦さん
貴方の身丈もちっとのびた」
小麦はさやさや葉をならし
可愛いこえで云いました
「白いひなさんかわゆい御方
私の持ってる青い穂
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