ある。私はそのよるの来るのばかりまって居た。まちあぐんで居た夜になっても「可哀そうな子だねーおまえは」と心んなかでささやいて居た。私は今夜にかぎって妙に母のそばをはなれたくなくなった。だまって、母の椅子のわきにすわってその肱かけに頭をのっけて居た。暑いからと云われてもどかなかった。
「早く御やすみ、つかれたようなかおして」
母に云われて
「おやすみなさいまし」
と云った、自分の声はいつもより、いかにも子らしいおだやかさであった。
私は悪い夢にうなされないようにとねがいながら床に入った。
七月二十六日
今日一日、思い出してもいやなような不安な落つきのない一日であった。
おとといっから御なかが痛むと云って居た母は大変今日になったらくるしくなってとうとうもどしてしまった、私は目に涙をうかべながらいろいろと世話をした、別に大してかなしかったんではなかったけれど……
大きい方の弟[#中條国男、中條家長男]の熱が又上って八度になったので、母は自分の体も忘れて
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「一時間毎に熱を御とり……ふみぬがないようにネ、
やたらに水をのんではいけないんだから……」
[#ここ
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