あらって出まどのわきにクッションを敷いて坐って他人の事でもあるように
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「どうして私の心は一日ごとに一時間ごとにこう違うんだろう?」
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と考えた。うすい木の棚からシみ出るニスの香を鼻の奥でかぎながらどうしてもわからせてしまわなければならない、と思って考えてた。一時間、もそうやって居た、けども分らなかった。
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「自分のもので居ながらどうして自分で分らないんだろう」
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 私は自分がいかにも無智な草木よりも、五寸位ほかはなれて居ないもののように思われて来た。
「我ままで?」
「気まぐれで?」
「生意気で?」
 数々ならべたてて目ろくのようにしても私の心の深いところにひそんで居るものは「ウン」と合点してくれなかった。
「可哀そうな子だネーお前はー、自分の心が自分でわからないでサァ」泣きたいような心持でなげつけるように一人ごとを云った。そうして、未練らしくたち上った。目ぶたの内がわがあつくなって居た。
 それから重いものを抱いてるような心地で夜の来るのをまって居た。
 夜は一番、私のうれしいたのしみな時で
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