になった。で三晩かかって孝之進に見つからないように心を配りながら、お咲のところへ手紙を出した。太い、にじんだ平仮名ばかりで、ところどころへ涙の汚点を作りながら、「わたくしのしんぱいおすいもじくだされたく候」と繰返し繰返し書いてやったのである。返事は浩からすぐに来た。三間もある手紙をおらくは嬉し泣きに泣きながら読み終った。息子の親切な言葉が彼女の心を和げて、何も本を読んだりものを書いたりすることなら、おじいさんも、そんなに怒りなさらないでもよさそうなものだにと思った。彼女にとっては、息子が庸之助と親しくしているのは、後生のために大変好いことだとほか思えなかった。が若いうちから孝之進に絶対的な権利を認めているおらくは、「女には分らない男同志のこと」に口を出して何か云おうなどとは、さらさら思わなかった。ただ、一日も早く孝之進の怒りのとけるように、如来様にお縋り申すほかなかったのであった。それに、孝之進も帰って来てから、どうも工合がよくなくて、腰についたリョーマチだという痛みが次第に募って、朝起きたばかりには、サアといって立てないほどになった。物忘れも激しくなった。前にも増して陰気になって、一
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