日中おらくにものを云わないことさえある。彼女は、おじいさんも信心がないからこうなのだと思って、折々は少しお説教でも伺ったらと勧めた。孝之進自身もこのごろのように心が淋しくて、苦しいことばかりあると、そう思わぬでもないが、どんなときにでもジッと歯を喰いしばって堪らえて来たのを、今更仏いじりで終ってしまいたくはなかった。それにもう帰る頃はほとんどとけていた、浩に対しての憤りを、今も持ち続けて行こうとする、辛い意地から、一層心が穏やかでないことを、彼は自分でも知っているので、こればかりは仏の力でも紛れそうに思われなかった。けれどもおらくは、裏へなど長く出ていて、何心なく奥へ行ってみると、何か涙をこぼしながら一生懸命に見ていた孝之進が、あわてて持ったものをかくしながら、空咳をするのなどをしばしば発見した。浩の手紙を見ていなさるなと彼女は悟ったが、それについては一言も云わなかった。そしてただ涙をこぼした。猫の額ほどの菜園の土を掘りながら、今頃はまたおじいさんが読んでいなさるころだと思うと、おらくは出来るだけ長く戸外《そと》にいた。時には用事がなくても孝之進の心を汲んで彼女は外へ出てブラブラと菜園
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