日は輝けり
宮本百合子

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)上気《のぼ》せた

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)また一人|攫《さら》われて

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#感嘆符二つ、1−8−75]
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        一

 K商店の若い者達の部屋は、今夜も相変らず賑やかである。まぶしいほど明るい電燈の下に、輝やいた幾つもの顔が、彼等同志の符牒のようになっているあだ名や略語を使って、しきりに噂の花を咲かせている。
 けれども、変幅対と呼ばれている二人の若者は、いつもの通り、隅の方へ机を引き寄せて、一人は手紙を書き一人は拡げた紙一杯に、三角や円を描き散らしていた。「三角形BCEト、三角形DCFトノ外切円ノ交点ヲGトシ…………」
 崩れるような笑声が、広い部屋中の空気を震動させて、彼のまとまりかけた考えと共に、狭い窓から、広い外へ飛び出してしまった。若者は苦々しそうに舌打をして、上気《のぼ》せた耳をおさえながら鉛筆を投げ出すと
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