高瀬へ問い合わせては返事を待ってしなければならないようなことが起って来るので、手間ばかりかかって、一向進まない。お咲の方からは、それとなし、金の催促の手紙を寄こすので、孝之進は、とうとう門先にある桐の大木を売ることにした。これはかつてお咲の嫁入りのとき、箪笥《たんす》でも作ろうなどと云われたこともあったもので、穢ない茅屋根を被い隠すようにして、毎年紫の品の好い花が一杯に咲いた。松だの杉だのばかり多い村中で、孝之進の家の目標《めじる》しのようになっていたのを、今伐り倒すことは、不如意な暮し向きを公然発表するようで気も引けた。けれども背に腹はかえられぬところから、孝之進はかねて見知り越しの材木屋を呼んで価踏みをさせた。商売となれば、遠慮はない。材木屋はいろいろな難癖をつけて、一抱えもある桐を、二十円で買ってしまった。
 久し振りで東京へ行ったことだから、息子のこと、娘のことをあれこれ聞くのを、楽しみにしていたおらくは、浩のことを云い出すと、「あんな馬鹿のことなんぞ訊くな」と云われるのが心外であった。そしてそればかりではなく、東京のことを訊かれるのを厭っている様子が彼女に不審を起させた。心配
前へ 次へ
全158ページ中85ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング