が、起き立ての子供のように、意識の統一のつかない彼は、ぼんやりとしていると、一人の若い者が裾の方に来てお辞儀をした。半分目を瞑って、後頭部の鈍痛を味うように感じていた彼は、
「誰れだ?」
とはっきり云ったつもりで声をかけた。けれども、浩の耳には、そち、こちに散らばっている一言一言を拾い集めて云ったように、
「だ、れ、だ?」とほか聞えなかった。情けない心持が、サアッと体中に流れた。
「お父さん? 工合はどんなです? 頭が痛みますか?」
「お父さん? ああ浩、お前だったかい!」
どんよりしていた孝之進の顔が一時、明るくなって、またもとの陰気さに戻った。大笑いになりそうな嬉しさを感じて擡げた頭を、またもとの通り枕に落しながら、孝之進は、
「帰れ帰れ!」
と云いすてて、寝がえりを打った。お咲の詰問するような眼差しが鋭く浩を射た。彼は、妙に縺れ合って、どれが、どの色とも分らない感情が込み上げて来るのを感じた。恥かしいのでも、恐ろしいのでもない。まして憎らしいのではないけれども、心の平調が乱れた。落着きが、一時自分から去ってしまったような気がした。涙ぐみながら、だまって坐っていた彼は、やがて「お
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