かに眉をひそめた。ようようお咲を、それも血の出るような思いをして、やっと出したばかりだのにすぐまたお代りに出られては、とうていやり切れなかったのである。
翌日、そのことを電話で知らされたときには、浩も半分病人のようであった。昨夜の睡眠不足、精神過労に加えて、二三日前からの風邪で、体中に熱っぽいけだるさが、蔓《はびこ》っていた。電車に乗っている間中彼は鈍痛を感じる頭のしんで、考えに沈みつづけていた。
浩が行ったとき、孝之進は二階で眠っていた。仰向けに、ユサリともせず寝ている彼の、口の周囲や目のあたりに、気のせいかもしれないが、昨夜まではなかった皺がふえているように見えて、浩の心はかるく臆した。足音を忍ばせて、傍にマジマジと横わっているお咲の枕元に坐って頭を下げると、彼女はいきなり、
「なぜお父さんを怒らせなんかしたの? あなたは!……。御覧なさいよ!」
と咎めるように囁いた。沈黙している彼を捕えて、半ば絶望的な感情から起る、執拗な意地悪さで、お咲は長いこと、彼を責めたり、憤ったりした。
かなりよく眠っていた孝之進は、聞えないようで妙に耳につく彼女の話声に、うすうすと眠りからさめた。
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