術的良心が、一致しない奔流となって、彼の体中に渦巻いた。
息子の決然とした態度に、孝之進の心は、たじろぎ、よろめいた。大きな大きな絶望が、真暗な谷底へ、一気に彼を蹴落したのである。説明のつかない涙が、とめどもなくこぼれた。親子二人が、卓子《テーブル》を挾んで、男泣きに泣いているとき、すぐ傍の若い者達の部屋では、幾度ともなく、笑声が崩れては響いた。浩は、無言のまま強い緊張で、後頭から頸筋にかけての筋肉が、重く強直してしまったような心持でいた。
「二度と顔を見ぬ」
孝之進は、帰りしなにまた繰返した。そしてトボトボと帰途に就いた。浩は夜道を独りやるに忍びないので、幾度送って行くと云っても、孝之進はきかなかった。
「貴様のような奴に送られんでもよい!」
けれども、彼がK商店の門を出て停留所まで来る間に、振返って見ると、一つの人影が、幾らかの間隔をおいて自分について来るのを発見した。浩だということはすぐ分った。けれども孝之進は知らない振をして、じきに来た電車に乗ってしまった。が、いざ自分が乗ろうとしたとき、浩の影がお辞儀をしたらしく見えたことが、非常に孝之進の心を掻き乱した。駈け戻って、叱
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