沈んだりした。
暫く睨みつけてから、孝之進は、浩に、
「勘当する! 二度と顔を見せるな!」
と、ぶつけるような声で云った。非常に興奮している孝之進に口添えをして、取締りは、彼の憤りの理由を説明した。
「杵築にお前が親しくしていることを云ったものでね」
そのとき、取締りの顔には、「云わないでも俺はちゃんと知っているぞ」という監督者でなければ分らないような満足した、幾分誇らしげな表情が現われた。そして、孝之進の憤りがあまり激しいので、「こうまで怒ろうとは思わなかったが」というふうに彼の方を眺めた。浩は一言も弁解もせず、反駁もしなかった。彼には、とりまとめ得ないほど、動揺している老父の感情を、この上掻き乱すに忍びなかったのである。それに、いくら弁解しても、互に理解し合えない或るものが横わっていることをも、彼は考えたのである。
取締りが席をはずしてから、孝之進は浩に繰返し繰返しその心得違いを諭《さと》した。彼は、いやしくも家老の家に生れたものが、罪人の息子――夕刊売と親しくし、つまらない小説などに凝っていることは恥辱だと思え。もう決して致しませんと誓言しろと云って涙をこぼした。浩は、口で
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