「俺の家へ来て見ないか? ここからじきだぜ」
「そうだなあ……。行っても好いけど、もう今夜はおそいや、また今度にしよう! ね?」
「駄目だよ、今度だって、そんなにいつも早く俺の体が空かねえよ。来て見なよ、すぐだからさ、いやかい? そうじゃなかろう、来いってばよ」
庸之助もしきりにすすめるし、浩も一度ぐらい彼のいるところを見るのも悪くはないと思った。で、浩は無邪気に彼と並んで歩き出した。広い通りを曲っては、先に庸之助を捉えたような裏道へ入り、また表通りに出ては、二人はかなり歩いた。
「じきだって、かなり遠いじゃあないか?」
「そりゃそうさ。坊っちゃんの考えることたあ、何でも違うよ」
庸之助は、ニヤニヤ快さそうな微笑を浮べて、チラリと浩の顔を見た。そしてまた黙って何を云っても返事をしないで歩きつづけた。裏通りで、解らないが、恐らく町名が異ったろうと思う頃、庸之助は人の家の間の、もっともっと穢くせまい小道に伴《つ》れ込んだ。浩はそろそろどこへ行くのだか、こうやって庸之助に引き廻されているのがいやになった。馬鹿馬鹿しい心持がして、軽々しく物好きに動かされたことを、我ながら不愉快に思ってい
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