た。で、年寄の取締りは、「そんな年中貧乏して、洋行出来る望みもない文学とやらは止せ止せ」とおりおり云った。けれども、文学ということも、どういうことなのか、あまりはっきりは解らない――ただ見ようとせないでも、自然と目に入るほど、そこここでかれこれ云われている遊蕩文学とやらいうことほか知れていない――で云いながらでも彼等の顔には幾分臆病な表情と、「俺達の云うことだから聞け」という、持前の押しつけがましさが漂っていた。
 それ故、結局浩はやはり従来の通り、書けるだけ書き、読めるだけ読む態度を、急に改める必要も起らなかった。それに、このごろ盛に頭を擡《もた》げて来る成金に、刺戟せられて我も我もと未来の大金持を夢想している他の若い者は、頼まれても浩のように古本漁りをしたり、ウンウン云って二枚三枚賞め手もないものを書こうと、思う者さえなかったのである。
 或る晩、高瀬へ行った帰途、浩は庸之助の所へよった。まだわりに早かったのだけれども、彼の籠は、浩が来て間もなく空になってしまった。
「もうお前も帰るだろう?」
 庸之助は、銅貨の溜った籠の底を、ジャラジャラいわせながら、浩に聞いた。
「うん、帰る」
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