白なのに、「新規蒔きなおし」に遣りだす心持はよく分る。ネロが、短剣を胸に擬してまでも自分が今こうやって死ななければならないことを諦められなかった心持を思うと、浩は、男らしくないとか卑怯だとかいうことを通り越して、ひしひしと自分に直接な共鳴を感じるのであった。それ故、庸之助がまた上京し、Sへ勤めようとすることは彼に充分同情出来た。
「それに、あの人は、何も自分自身を見捨てる理由はないのだ。どうぞうまく、まとまれば好いがなあ……」
浩は、庸之助の体を、高く高く両手に捧げて、ドシドシと大きな広い公平な道を歩いて行きたいような心持がした。けれども、庸之助が働かなければならない普通の世間では、庸之助の父親は「罪人」――浩は、「罪人」と云うとき、例えば「あいつは一度牢へ入って来たんだとさ」と云うとき、一種異った表情を大抵の人は現わすことを、認めている。――で、庸之助のような「罪人の息子」は自分等の仲間に入れて置かれないように考えられている。
多勢子供達が遊んでいる。「鬼ごっこするから、お――いで。鬼ごっこするからお――いで!」歌いながら、手を組み合って、仲間を集めているところへ、弱いおとなしい
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