らキットこうなんだとは思っていたんだが、ちっとばかり心配だったんでね、父さん! ハハハハハ」
 満足するほど、独りで泣いたり笑ったりしたあげく、融けそうな微笑を浮べながら、庸之助は部屋に戻ってきて、何か書きものをしている浩のところへ、真直に進んで行った。肩に手をかけた。
「オイ! よかったよ!」
 弾んだ声が唇を離れると同時に、肩に乗せていた彼の手の先には、無意識に力が入って、握っていたペンから、飛沫《しぶき》になってインクが飛び散るほど、浩の体をゆりこくった。
「う?」
「よかったよ君! もうすっかり解った。何でもなかったんだよ※[#感嘆符二つ、1−8−75]」
 笑み崩れた庸之助の顔が、「あのことだよあのことだよ」と囁やいた。
「え? ほんとうかい? ほんとうに何でもなかったんかい? そーうかい! そりゃあほんとによかったねえ君! ほんとうによかった!」
 極度の喜びで興奮して、ほとんど狂暴に近い表情をしている庸之助の顔を、一目見た浩の顔にもまたそれに近いほどの嬉しさが表われた。
「よかったねえ。おめでたかったねえ……」
 浩は、庸之助の肩を優しく叩きながら、感動した声でいったので
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