助かる。彼はとうとう決心をした。そして、皺だらけな札と引きかえに、家代々伝わってきた「子猿之図」を永久に手離してしまったのである。

        五

「ホーラ見ろ※[#感嘆符二つ、1−8−75]」
 庸之助は飛び上った。
 若し万一、かの記事通りの恥ずべき行為があったなら、親子もろとも、枕を並べて切腹するほかないとまで思いつめて、事実を訊ねてやった返事として、父自身で書いたこの、この手紙を貰ったのだと思うと、五日の間あれほどまでに苦しんだ煩悶が、驚歎せずにはいられない速さで、彼の心から消えてしまった。激しい嬉しさで、彼はどうして好いか解らなかった。ひとりでに大きな声が、
「ホーラ見ろ! 僕の思った通り、きっかりその通りじゃあないか! 見ろやい※[#感嘆符二つ、1−8−75]」
と叫んで、じっとしていられない二つの手が、無意識に持った手紙をくちゃくちゃにまるめた。書面のあちらこちらに散在している「公明正大」という四字が、天から地まで一杯に拡がって、仁丹の広告のように、パッと現われたり消えたりしているのを彼は感じた。
「さすがは父さんだ。偉い! 見上げたものだ。なにね、そりゃ始めっか
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