けてまで、僅かな余韻も聞き逃すまいとする。
閉っている無双窓を、差しているピンの先で、みみずの這うほど僅かずつ、時間をかまわずこじあけて、顔中に縦に赤い縞の出来るのもかまわずに、息子の様子を、偸み見ようとする。
戸をこじっているとき、唇をかみしめ、かみしめ、外を覗いているとき、彼女の心の中には、ちょうど囚人が、爪の間にかくせるほどの鑢《やすり》で、鉄窓のボールトをすり切ろうとしているときの通りの、寸分異わない熱心さ――常識で判断出来ない忍耐と、努力、想像の許されないほどの巧妙な手段を発見すること――をもって、全身の精力を傾注することを惜しまなかったのである。もちろん惜しい惜しくないは、問題にもならなかったのである。
それ故、自分の鍾愛《しょうあい》の者に、自由に接近し愛撫し得る、位置にある者すべてに、彼女は病的な嫉妬を感じた。激情が心を荒れまわって、誰彼の区別なく罵った。
「どうしても会わせないの? どうしても?」
血が燃え上るような憤怒で、彼女は夢中になった。戸を両手や体でガタガタと揺ったり、蹴ったりした。散々荒れまわった末、疲れきって暫く呆然としている彼女の心が、また落付い
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