て来ると、前と同様な苦悩が、お咲の心を掻き乱し、悶えさせたのである。
 お咲は泣きながら、無双から差しこむ、日光の黄色い中に跳ねまわっている塵《ちり》の群を見ながら考えた。
「私はどうすれば好いのだろう? 一生この中で暮さなければならないのか、一生! 一生この中で?」
 彼女は恐ろしさに震えた。
「云うことはとりあげられず、咲二にも会われず、口もきかれず、この苦しい思いをつづけながら、何のために、生きていなけりゃあならないのか?
 咲ちゃん、お前は母さんがこんなにも思っているのが解る? 可愛いお前をみすみす人にとられて、母さんはどうして生きていられよう! たった一人で、幾日も、幾日も、一年も二年も、死ぬまでも気違いだと思われて生きているなんて!」
 お咲の目前には、この上なく恐ろしい、悲しい、身の毛のよだつような幻が現われた。生きながら半身土埋めにされて、野鳥や獣に肉を喰われて、泣き喚めいている者。足の先から血が通わなくなり、死に腐って来る。けれどもまだ気は確かなまま、もがき、泣き叫び、逃げようとしても、どうにもならないむごたらしい死様を、自分もしなければならないのだと、彼女は、思った
前へ 次へ
全158ページ中151ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング