》りつけるか? 浩はそれ等の限りないことに考え及ぶと、ただ小さい、力弱い自分ばかりが悔まれるのである。自分の年はどうにもしようがないのだとは思いながら、せめて三十近くにもなっていたら、どのくらいすべてが工合よく行ったか分らないのにという心持さえした。
 けれども、それ等はただ思うだけのことで、彼はやはりK商店の事務机の前に、勤勉でなければならなかったのである。それが彼の最上である。が、浩が要求する最上の標準に比べて、現在自分が実現することを許されている最上は、何という低い、小量のものであったろう! どんな人にとっても、ほんとうに世の中はただ楽しいものではない。光輝あるものではない。辛い。
 時には独り、全く独りで奮闘するのに堪えられないようになる。
「けれどもお前は男だ! しっかりしろ※[#感嘆符二つ、1−8−75]」
 浩は、無音無形の、彼の守りに励まされては、涙を呑みこみ、足を踏みしめて、彼の道を進もうと努力していたのである。
 孝之進の健康は、浩の想像したより悪かった。彼はもうすっかり、永年の積り積った苦労に打ち負かされてしまったのである。
 お咲の部屋の、無双窓の下に敷いた床か
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