きなり相手の体に突掛かった。そして徳利に手をかけるや否や、満身の力をこめて、撲りつけた。徳利に触れた瞬間彼の衷心には、破れかぶれな、いっそ一息に煽ってやれというような思いが猛然と湧いていた。けれども次の瞬間、彼の手が無意識に振り上って、堅い手応えを感じた刹那、飽くことを知らぬ残忍性、気の違う憎しみが、暴風のように彼の心に巻き起ったのである。
皆の立ち騒ぐ音に混って、上ずった庸之助の叫び声が物凄く響いた。器物の壊れる音。叫び。揺れる灯かげに、よろばいながら動くたくさんの人かげ。
庸之助は、ますます狂暴になった。手にさわるものを、ひっつかんでは投げつけ、投げ倒し、阿修羅のように荒れまわった彼は、何か一つのものを力一杯撲りつけたとき、酒にまじって、生暖かい、咽《む》せるような生臭いものが、顔にとびかかって来たのを感じた。
「血※[#疑問符感嘆符、1−8−77]」
彼は、思わずたゆたって、よろけた。
「血! 人殺し! 人殺し※[#疑問符感嘆符、1−8−77]」
彼は身震いを一つすると一緒に、前後も見ずに裸足《はだし》のまま、戸外《おもて》へ飛び出してしまった。
霧雨のする闇路を、庸之
前へ
次へ
全158ページ中143ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング