を拭くと、そこそこに膳に向った。寒さで好い加減冷えている彼は、冷たい飯を食べると、歯の根が合わないほどになった。頭の下の方が、強直して来るような気さえして、ボッとする酒の香いが、しみじみとこたえた。絶対に禁酒してから、まだ一ト月ともならない彼の味覚は、はっきりその快い酔際の味を覚えている。が、おくびにもそんな気振《けぶ》りは見せなかった。彼等に知られるのが厭で、装うた無頓着さが、彼の態度を忽ち、ぎごちなくした。
カチカチな干物をほごしていると、今まで何も知らないようにしていた仲間の一人が、
「オイ、一杯よかろう?」
と突然|猪口《ちょく》をさしつけた。多勢の酔った声が、呑め呑めとわめいた。
「いやいらない」
「まあそんなに意地を張らなくたっていいやな!」
「飲みてえって、顔に書いてあらあ! ハハハハ!」
「ハハハハハハ、偉いよ!」
面白そうに嘲笑う者達を、庸之助は鋭く睨み返した。
「何で飲むもんかい!」
彼は、鼻について堪らない酒の薫りを強いてまぎらせながら、さっさと飯をしまった。そして隅の方へよって、揉みくちゃになって放ってある新聞を見始めた。けれども、実は見る振りをしたのであ
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