りゃ、こっちもまた出ようもあらあ」という反感が皆の心を占領して、庸之助が、真面目になればなるほど、総がかりの迫害が募って来た。一度、全身をあげて、彼等の仲間の一員となっていた庸之助の内心には、たといいかほど抑圧していようとも、どんな欲求があり、誘惑があるかということは、彼等にはよく解っている。こうすれば、こう感じるということを、千も万も承知でいながら、チクリチクリと苛なんでは、苦しむ彼をなぶり者にしていたのである。
 けれども庸之助は、ブルブルしながらも辛抱をした。そういううちにあっても、揺がない自分を保つことが、真実の修養なのだというのが、彼の確信であった。
 ところが或る晩、ショボショボ雨の降るときであった。
 妙に骨を刺す風と、身にしみ入る雨水の冷たさで、体中かじかむほどになって、腹を減らしながら庸之助は、帰りたくもない合宿所へ戻って来た。
 油障紙を明けると、濁った灯の光に照らされて、脱ぎ散らした草鞋《わらじ》や下駄で一杯になっている土間を越して、多勢が車座になって、酒を飲んでいるのが見えた。
「悪いときに帰って来た!」
 庸之助は、つとめて皆の注意を引かないように、隅の方で足
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