然の機会も力の及ばない距離が出来ていた。二度目に浩が、索ねて行った時分には、彼は北海道の鯡場《にしんば》行きの人足の一人となって、親分に連れられ、他の仲間と一緒に、もう雪の降った北のはずれへ旅立ってしまった後であったのである。
 あの日「天の配剤によって」自分の心の中に希望を見出した庸之助は、今まで自分から進んで同化しようとしていた周囲に、急に反感を持ち、恥辱と憎しみを感じ始めたのであった。(庸之助は、俥夫と喧嘩をしたことから、交番に引かれたことまで、すべて天の配剤であると信じ、あの事件の代名詞として天の配剤を用いた。)善くなろう善くなろうとしている庸之助にとって、厭わしい、醜悪なこととほか感じられないすべてのことが、彼の周囲に渦巻いている。あらゆる下等な誘惑が、互の拒もうともせぬ間に漲りわたっている。
 庸之助はこの間に在って、独り自分の所領を守るべく努力したのである。けれどもそれは非常に困難なことである。彼等――庸之助からいえば「下劣な奴等」――の群は、今までおとなしく仲間になっているように見せかけて、急に寝返りを打った庸之助に対して、小面憎い感を免かれない。
「フン、貴様がそう出
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