、月が沈むのと何の差もなく、人が死に、生れ、苦しみするのを自然は見ている。が、決してそうであるのが無慈悲なのではない。求め索《たず》ねて得ようとすれば、自然はそれを肯定していると同時に、あるがまま、なるがままにまかせた心で、安穏にしていたとて、何の咎めも与えないのだ。偉いものだ、素晴らしいものだと彼は、つくづく感じたのであった。

 国元の父親から来た手紙を見たとき、浩は、小虫を見たときに感じたと全く同じな、一種の心持、全く説明の許されない一種の感にうたれたのである。悲しいというより恐ろしかった。すべては涙をこぼせる程度の状態ではなかった。まだやっと七つの咲二が、恐れ恐れている禁厭《まじない》を、観念した心持で掛けられる様子。お咲の狂乱した姿、おらくの念仏。父親が、不快なときに立てるあの陰鬱な足音……。
 不幸の底に沈んだ二組の親子の有様が、彼の目に活《い》きて動いた。何ともいえず痛ましいことだ。極端な悲しみが、彼の涙を凍てつかせて、肉体的の痛みを、眉と眉の間に感じたほどであった。
「誰がこれを起す原因となったのか?
 誰が咎められるのか?」
 浩は、うめくようにつぶやいた。
「姉さん
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