もなく捨てられないとは、決していえない。けれども、今こうして小虫は、それらの一つも考えず、自然の命ずるがままに、勇ましい従順さで任務を果そうとしている。
言葉にまとまらない雑多の感情が、あとからあとからと彼の心に迫って来た。浩は何だか、この一匹の小虫の前に――或る時は彼等の存在することにさえ頓着なく過してしまい勝なこの小虫の前に――自ずと頭の下る心持がしたのである。
各自の子孫に対して持つ精神過程は、すべての生物が全く同一なのだ――たとい自意識のあるないの差はあっても――と思うと、浩はあらゆるそのときの親というものがいとおしいように感ぜられた。「親馬鹿」になるはずだと思われた。ならずにはいられないように、命ぜられているのだと、或る点まではいえる。浩は何だか妙な心持がした。善種学を人間が考える根本の心持が、痛切に感じられると同時に、どうせ結局は生活の敗残者とならねばならないように見える、体力にも智力にも適者となる素質の乏しい人までが、自分自身ようようよろめきよろめき歩きながらも、親という位置にほとんど無意識に立っている心持が可哀そうになった。
すべてが大自然の意志である。日が輝やき
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