辛いらしい。細い体中をこわばらせ、ほとんどもがくように動く、浩は少しびっくりした。そして、多大の興味をもって観ているうちに、更に驚くべきことを発見したのである。この名も知れない一匹の小虫は、二つに裂けて見える胴体の最終部から、目にも見えないような卵を生みつけていたのである。
毛筋ほどの脚を延ばしきり、体を燭《しょく》の柄のように反らせ、この小虫にとっては、恐らく無上の苦痛を堪えながら、完全に責任を果そうと努力しているらしい様子を見ると、浩は一種の厳粛な感動にうたれた。
暫く静かにしていた虫は、また急に痙攣的に体中を震わすと、少し位置をかえて鎮まる。見れば薄茶色の、ペン先で作った点ほどの卵が、そこに遺っている。今にも捨てられてしまうかもしれない一片の古紙の上に、小虫は全精力をそそぎ尽してしまうほどの努力をもって、大切な子孫を遺そうとしているのである。すぐ捨てられるかもしれない紙の上に……。浩は「大自然の意志」が、あまり歴然と今自分の、この目前に示されているようで正視するに堪えない心持になった。悲壮な、また恐ろしい有様である。
小虫も、もうじき死ぬのだろう。卵もすぐ紙ぐるみ、何のこと
前へ
次へ
全158ページ中129ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング