た。
裏へ廻って見ると、柿の木と納屋との間に挾まった咲二の、小さい後姿が見える。彼女は抜き足をして近よった。咲二は、人さし指を釘のように曲げて、納屋の外壁をほじくっては爪の間につまって来る、赤茶色の泥を食べているのである。さもうまそうに、ビシャビシャ舌なめずりをしているのを見ると、お咲は、頭から冷水を浴せられたような気がした。周囲を見廻して、まあ見ている者のなかっただけ、何より有難かったと思いながら、もう足音を隠そうともせずに、息子のそばによって行った。
彼は、思いがけず母に来られて、少しはびっくりしたらしかった。が、もうすっかり彼女の愛に信頼しているように、泣きも、逃げかくれもせず、仰向いてお咲の眼の中をながめた。
彼女は、あわててオドオドしながら、息子の手をグングン引っぱって家へ連れ込んだ。障子のあらいざらいをしめきってから。
「どうしてそんなことをするの? 咲ちゃん!」
と、始めて口を切った。
「なぜそんなものを食べるの? お菓子をあげるからお止めと、あれほど云ったじゃあないの? 何がおいしいんだろうねえ」
咲二が壁土をたべる癖の起ったのは、いつごろからだか誰も、はっきり
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