歩いた。
散歩かときかれれば、そうでもあり、家探しかときかれれば、そうでもある。ひろ子の歩いている気持はそのようなものであった。その頃は云い合わせたように友達たちも、家をさがしていた。それぞれの理由が、それぞれにこの数年間の彼等の生活のうつりかわりを反映しているのであったが、ひろ子が家を見て歩くには、又おのずから別なわけがあった。一軒の家というものは大なり小なり二人以上の人間がよって暮すように出来ている。それだのに、ひろ子はどうしても良人とは別に、一人で暮さなければならない事情におかれていて、その事情というのは、よしんばひろ子が重吉の住わせられている場処の高くて厚い塀の一重外で家を見つけようとも、そこに住むのはやはりひろ子一人でなければならないというものなのである。だから、ひろ子が家をさがす心持には、家そのものにつれて、暮しの形をさがす思いもこめられている。アパートなど考えるのもそこからのことなのであった。どうせ一人でくらすのであれば、いっそまるきり一人で、手つだいのものなどなしにやって行ける暮しはないだろうか。折々ひろ子は、重吉と一緒に暮したい心の激しさそのもので、毎日の形を一変す
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