日々の映り
宮本百合子

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)塵芥籠《ごみかご》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)何かのこつ[#「こつ」に傍点]で
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 魚屋だの屑金買入れ屋のごたついた店だののある横丁から、新しく開通した電車通りへ出てみると、その大通りはいかにも一昨日電車がとおりはじめたばかりのところらしく、広くしん閑としていて、通りの向い側は市内に珍しい雑木林がある。右手の遠方に終点があって、市場らしい広告幟も遙かに見えるが、左の方は坂になっていて、今は電車も通っていないその坂の先は目を遮るものもなく白雲の浮いている大空へ消えこんでいる。明るい寂しさのみちた午近くの街すじである。
 ほんの僅かの通行人にまじって、ひろ子はその大通りを、向い側の小路へ曲って行った。
 ところが、その路は塵芥籠《ごみかご》がいくつもつみ重ねておいてある不潔な狭い空地のところで三つまたになっていた。土地に馴れない者らしく、そして不知案内な顔つきで一寸佇んでいたひろ子は、ふっと思いついたという調子で、そこに草箒をつかっている割烹着のお神さんに声をか
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