ぱりしないのは余り明くない病室の燈で多くの注意を病児に向けながらも尚一生懸命に上杉博士の憲法の講義を読んだりして四時まで起きて居たためだと分ると、何だか思い掛けず自分の体は弱い情無いものの様に感ぜられました。
 彼女は帯をしめながら、
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「今日は私も少し変だよ、
 風を引き込んだ様で。
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と傍に乳を吸わせて居る女に云いました。
 左程気にも止めぬらしく半ば同情と半ばの義理を混えながら、
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「そうでございましょうよね、
 もう七日目でございますもの。
 随分お疲れでございましょう。
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と云ったのですけれ共彼女は変に上気せた様な顔をして小窓から雪の散って居る外を暫く見てやがて顔を洗いに小春の様な室内から総てが凍て付いた様な洗面所へ出て行きました。
 正面の大鏡に写った顔を見て彼女は自分で自分をすっかり診察して仕舞いました。
 彼女の白眼は海の様に青く、頬の両傍から鼻にかけて妙にうるんできめの荒く赤がった皮膚がたるんで居るのは彼女の頭の工合の悪い時に限って表われる事なのです。
 食堂に来て見ると母は珍
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