自分自身も興奮して居ました。
有らいざらいの力で動いたのでした。
彼女の頭の中は夕方近くに来る某博士の診断の想像、立て閉めた西洋間の中の様子、手伝に来て居る者にお菓子をやり医者の車夫に心づけを仕なければ成らない事、五時までに食事を出さなければならない事、…………
まるで蜂の巣の様に細かく分けられた頭は皆その小さい部分部分で活動し手足はよくその事を聞いて呉れました。
彼女にはそれがどんなに嬉しかったでしょう。
彼女はお上品振ったのが大嫌いです。
何にも知らないと云うのを誇りとする「お嬢様」をどれ位哀れんで居た事でしょう。
人間は何でも知って居る丈は知って居なければいけない。
何でもやりこなす腕がなくてどうなるものか。
彼女は、平常こそ書斎にばかり閉じ籠って母の仕事などとは没交渉な生活をして居ても、いざとなればどうにかすべてを切り廻し無くてはならない者になると云う自分のどっかにかくれて居る力をこの時どんなに感謝した事でしょう。
彼女は専心に働いたのです。
けれ共今朝になって見ると彼女は何だか変な気持になりました。
踵の痛いのは立ち続けた故だと分りました。
頭のさっ
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