二月七日
宮本百合子
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)剥《む》く
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#ここから2字下げ]
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彼女は耳元で激しく泣き立てる小さい妹の声で夢も見ない様な深い眠りから、丁度玉葱の皮を剥《む》く様に、一皮ずつ同じ厚さで目覚まされて行きました。
習慣的に夜着から手を出して赤い掛布団の上をホトホトと叩きつけてやりながらも、ぬくもい気持で持ち上げた頭をフラフラと夢心地で揺り未だ寝て居たい気持と、皆困って居るのだからもう起きてやりましょうと思う心とが罪のない争闘を起し始めたのを感じて居ました。
自分が寝せつけられて居る様な音調で彼女は子守唄を唄いました。
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お家の可愛いお宝ちゃん
お寝み遊ばせお静かに……!
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彼女がその時々勝手な言葉をつけて細い声で唄う歌は暫くの間子供を静かにさせましたけれ共、その次ほんとうに火の付いた様に「イヤー」と云いながら上げた泣き声はすっかり合おう合おうとして居た瞼を見開かせて彼女は五つ六つの子の様に手の甲で目をこすりこすり
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